跡部景吾。我がテニス部の部長でありながら、本校の生徒会長。もちろん、テニスの実力は全国区。学校の成績も優秀。先生たちからの信頼も厚く、ほとんどの生徒たちの憧れでもある。まさに、カリスマ的存在というわけだ。
・・・・・・それは認めよう。仮にも、自分が(マネージャーとして、ではあるけれど)所属している部のトップの人間なのだから。だけど、女の子から恋愛的観点で人気があるのは、どうも納得できない。
・・・なんてことを、忍足に論じてみる。ちなみに今は部活中だけど、忍足は休憩に入っているため、決して邪魔をしているわけではないと付け加えておく。私自身も、部室で部誌を書いているので、サボっているわけではない。



「跡部は顔もえぇやんか。モテるんも当然やと思うけどなぁ。」

「たしかに、そうなんだけどさー・・・。見た目なら、みんなだってカッコイイじゃん。何も跡部みたいな奴じゃなくてもいいと思うわけ。」

「跡部の奴、えらい言われようやなぁ。」



そうやって、忍足は笑っていたけど・・・。この状況からも、私の発言は正しいと思わない?



「そんなことないし。だって、同じテニス部の忍足の方が、より親しみやすさもあって、好きになる意味もわかる。」

「それは、おおきに。ただ、人の好みはそれぞれやから。親しみやすさより、近寄りがたさがえぇって人もおるやろ。」

「それって恋愛感情じゃなくない?」

「んー・・・、そうやなぁ。せやから、恋愛感情やなくて、の言うように『憧れてる』っちゅう奴が多いんちゃうか?」

「でもさ、女の子は告白とかしてるってことは、恋愛対象として見てるんじゃない?」

「なら、それは勘違いなんちゃうか・・・・・・・・・とでも言うてほしいんか、は。」



今度は呆れたように笑う忍足。・・・一体、何が言いたいのよ。



「どういう意味?」

「わかりにくかった?ほんなら、言い換えるわ。は、近寄れへんわけやないねんし、勘違いとちゃうで?」

「・・・忍足。私に喧嘩売ってるよね?」

「売ってへん、売ってへん。そやけど、俺にはそう見えねんって。」



苦笑いをしながら忍足は、そう言った。そう見えるとは・・・。



「私が跡部のことを好きだとでも?」

「まぁ、簡単に言うと、そういうことや。」

「うん。やっぱり、喧嘩売ってるよね?それ、買おうか??」

「売ってへんし、買わんでえぇ。」



相変わらず忍足は、私がまるで困った子供みたいだとでも言いたげに、笑いながらそう答えた。それを見て、喧嘩を売っていないとは思えないんだけど?
・・・と向きになる私は、忍足が思うように子供なんだろう。忍足はやっぱり頭が良くて、何もかもお見通しなんだ。・・・つまり、実際のところ、私は跡部のことが気になって仕方がないんだ。



「・・・・・・・・・だってさー・・・。」

「ん?だって、何や?」

「だってー・・・・・・癪じゃん。」

「・・・しゃく?」

「うん。なんか、跡部のこと好きって認めるのって、癪じゃない?なんで、あんな奴を好きになっちゃうんだよ、私?!みたいな。」

「なんや、それ。相変わらず、おもろいなぁ、は。」



またも忍足は笑っていたけれど。こっちとしては、何も面白くない。



「だって、あの跡部だよ?!そりゃ、見た目も良ければ、頭も良いし、スポーツもできて、完璧な奴だけどさ・・・。でも、アイツはそれを自覚してるんだよ?!つまり、ただのナルシスト!!!そんな奴を好きになっちゃったら、私までそのナルシストを認めることになっちゃうじゃん!!」

「・・・えぇんとちゃうかぁ?」

「・・・・・・忍足。今、他人事だからって、テキトーに流したでしょ。」

「テキトーやないって。好きになる奴の全部を愛する必要は無いんとちゃうか、ってことや。ナルシストな部分が嫌やとが思てるんやったら、それはそれでえぇやんかってこと。」

「・・・忍足は、映画とかの見すぎだよ。」

「ハハ、そうかもしれんなぁ。まぁ、で、意地の張りすぎやと思うで。」

「・・・。」

「そう不満げな顔せんといて。は納得いかんかもしれんけど、俺の話も少しは聞いてや。」



駄々をこね始めた子供をあやすように、忍足は話し出す。・・・全く、子供扱いもいいところね。だけど、私も子供じゃないから、大人しく聞いてあげることにした。



はさっき、ナルシストな部分が嫌や言うてたけど。それ以外は、基本的に褒め言葉やったんやんか。ってことは、やっぱりも跡部のえぇ部分も見てるわけや。」

「そりゃ・・・ね・・・。」

「んで、は跡部のそういうところが好き。・・・それだけのことやろ?」

「えらく簡単に言ってくれるわね。」

「第三者から見たら、意外と簡単に見えるもんなんや。」

「それも映画から得た知識なのかしら。」

「そうかもしれへんわ。んで、映画やったら、この辺で本人登場!みたいな展開になってもえぇんやけどなぁ。」

「現実は、そうも行かないわよ。」



なんて、私が冷静に返すと・・・・・・。



「が、そうも行くんだな、これが。」



そんな偉そうな声が私の後ろから聞こえてきて、驚いた私は急いで振り向いた。そこには案の定、偉そうに“奴”が立っていたわけだけど・・・。こんなに上手く、忍足の言ったことが起こるとは思えない。



「謀ったわね、忍足・・・?」

「そんなことしてへんって!疑われるぐらい、タイミングが良かったかもしれへんけど・・・。それは、俺がの後ろに跡部が見えて、そう言うたからであって・・・。第一、からこの話をし始めたのに、俺が謀れるわけないやんか。」

「まぁ、さっきから、俺様がここに居たのは確かだがな。」

「それを謀ったって言うのよ、忍足くん・・・?」

「はぁ・・・。なんで、跡部も言うてまうかな・・・。まぁ、ええわ。俺はもう休憩終わりやから。後は2人で好きにしー。」

「あ、ちょ!待ちなさいよ、忍足・・・!!」



部室から出ようと・・・いや、この場合は逃げようと、していた忍足を呼び止めるため、私は椅子から立ち上がった。そして、私は忍足の方へ駆け寄ろうとしたけれど・・・、後ろの“奴”が私の腕を掴んでそれを阻止したのだった。



「待て、。話はまだ終わってねぇだろ。」

「もともと、アンタとなんて話してないわよ。」



私は後ろも向かずに、ソイツに言い放った。だって、私は今まで忍足と話していたんだもの。話が終わっていないという理由で人を呼び止められるのなら、それは私に忍足を呼び止める権利があるということだ。決して、“奴”に私を呼び止める権利など無い。



「じゃあ、聞くが。お前は今まで忍足と、一体誰の話をしてたんだ・・・?」

「そうね・・・。私の大嫌いな奴について、よ。」

「どこまでも素直じゃねぇ女だな・・・。俺様がさっきから居たって聞いてなかったのかよ。」

「いつから、そこにいらっしゃったのかは聞き及んでおりませんので。」

「大体予想がつくだろ。・・・お前はそこに座っていて、他の奴らが部室に入って来るのを気付けないのか?」



たしかに、目の前ではないものの、私の席からは部室のドアが見える。さっき、忍足が出て行ったドアだ。・・・・・・覚えておきなさい、忍足。・・・などと忍足に文句を言っている場合ではない。
ドアが見えているこの状況で、私が気付けないはずがない。つまり、忍足以外には誰も部室に入って来てはいないということだ。それなら、“奴”はさっきから部室に・・・?
そんなはずはない。私が部室に入ったとき、そこには誰も居なかった。どんなに、この部室にお金がかけられていて、他の部室より広くなっているとは言っても、この部屋に誰かが居ることぐらい・・・・・・。
そこまで考えて私は気付いた。・・・そうだ。この部室には、他にも部屋がある。そして、ちょうど“奴”が居る私の後ろ側には、そのもう1つの部屋へ続くドアがある。



「なるほど・・・。最初から、ここに居たのね・・・。」

「察しがいい女は嫌いじゃないぜ・・・?」



そんな“奴”の生意気な言葉を聞いて、半ば諦めかけた私は大人しく、さっきまで座っていた椅子に、もう一度腰掛けることにした。そうした後も、私は振り向くことなく、前を向いたまま話を続けた。



「だとしても。話をどこから聞いていたかはわからないじゃない。」

「安心しろ。大体、最初から聞いている。」

「そうですか。」



何が安心しろ、だ。むしろ、安心することなど何も無い。
コイツのこういう所が嫌いだ。全てをわかっているような口ぶりで言う。それは自分に都合のいい解釈だとも知らずに。・・・だけど、その解釈は間違っていないことが多いから、余計に腹立たしい。とは言え、今回ばかりは意味がわからない。
そう思って、私は呆れた口調で返事をした。



「で?何が癪なんだって・・・?」

「・・・最初から聞いてたんでしょ?だったら、わかるじゃない。」

「たしかにお前が何て言ったかはわかるが・・・、お前の言った言葉の意味がわからない。だから、説明しろと言ってるんだ。」



相変わらず、偉そうな口調に私の苛立ちは最高潮に達して・・・。体を横に向け、顔を“奴”の居る方に向けて言い放った。



「だーかーらー!アンタのそういうところが嫌いで・・・!そんな跡部のことが好きだと思う自分が癪だって言ってるの!!」

「素直に好きって言ったらどうだ?」

「うるさい。」

「ふっ・・・、まぁ、いい。俺はお前のそういうところも好きだぜ・・・?」

「放っといて。」

「放っとけねぇよ。惚れた女を誰が放っておくか。」

「・・・・・・は?跡部、何言って・・・。」



今の流れじゃ、まるで跡部の惚れた女=私になりやしないか?そんなことはあるわけなく、跡部に「何言ってんの?」と言おうとしたのに、それは跡部の言葉に遮られてしまった。



「だから、俺はのことが好きだって言ってんだよ。」

「・・・・・・はぁ?!どこが?!!」

「そりゃ、マネージャー業を熱心に取り組んでいるところもいいが・・・。第一に、俺に突っかかれるような度胸があるところがいい。あと、さっきも言ったが素直じゃないところも・・・。」



まだ言い続けようとした跡部に、今度は私が言葉を被せた。
コイツ・・・、よく恥ずかしがりもせずに言えるわね・・・・・・。言われたこっちが恥ずかしい。



「その『どこ』じゃなくて!!」

「あ〜ん?じゃあ、どういう意味だよ?」

「アンタの態度の『どこ』が、好きな人に対する態度なわけ?!って、こと!!」

がそれを言えるのか・・・?」



嬉しそうに言う跡部に、私は何も言い返せなかった。だけど、そのままじゃ悔しくて、一言だけ私も言い返してやった。



「趣味悪い・・・。」

「それはお互い様だ、とでも言ってほしいのか?」



だけど、そんな跡部の返しに、私はふっと吹き出してしまった。
だって、そう言われたとき、最初は「私は趣味悪くないし!一緒にするな!」って思ったけど。それは、つまり跡部のことを認めてしまうわけで。でも、ここで「そうだね。私も趣味悪いよ」と言えば、何だか私の考えを否定しているようで・・・。
結果、この質問は、どう答えても、私が納得いかないようにできている。そう考えると、もう苛立ちよりも、諦めが先立ってしまって、笑えてきたのだ。



「何笑ってやがる・・・。」

「ゴメン、何でもない!それより。跡部がここに居たのは偶然なんでしょ?忍足は、よく跡部の計画に乗ってくれたわね。」

「そうだな・・・。まぁ、アイツのことだ。お前が俺に悪態を吐いているにも関わらず、俺が何も言わず、後ろに突っ立ったままでいるのを見て、大方察しでもついたんじゃねぇか?」

「なるほど。」

「それに、俺が居るからって、アイツは俺を褒めるようなことばかり言ってやがったからな。そういうところも抜かりが無いぜ、忍足は・・・。」

「ハハ。さすが、忍足。」



私がそう言うと、すっと跡部が視線を外し、何かを呟いた。



だが、アイツは、俺の前でものことを馴れ馴れしく呼びやがって・・・。

「跡部?何か言った?」

「いや。」

「ふ〜ん、そう。・・・そういえば、部室で何してたの?」

「あぁ。それは、今週の――。」



そうやって、その後はマネージャーと部長としての話をしていたけど。・・・本当は、さっき何て呟いたのか、聞こえてたんだから。アンタも素直じゃないわねぇ・・・?なんて言ってあげても良かったけど、私も人のこと言えないからね。今回は見逃しといてあげるわ。
それに。その呟きが正直嬉しかったからね。だけど、それも教えない。だって、見逃してあげたんだから、教える必要無いものね?あと、やっぱり、教えるのは癪だからね♪













 

ふと、何かを考えているときに「跡部さんはカッコイイから、許されるよねー」みたいなことを思った自分が居まして・・・。で、「うわ。跡部さんのことカッコイイって言うの、なんか癪やなぁ(笑」と思ったので、この話を書いてみました!(←失礼)
もちろん、跡部さんのことは好きですよ?でも、素直に言いたくないんですよねー。皆様もわかりません??(笑)

ところで。タイトルを考えてるときに、いくつか案があったのですが・・・。今回のタイトルの最初の文字を取ると「A T B」で、気付けば、偶然「A To Be(跡部)」と似た感じになってる!と思って、そうしてみました(笑)。なので、意味はそんなに無いです(←オイ)。

('09/02/27)